2014/09/21

「人工言語ロジバン概論」への返事を「はじめてのロジバン」作者が書いてみた

「ロジバン」でエゴサ(誤用)していると、やたら活気溢れていました。なんだなんだ?!と思いながらたどっていくと、どうやら #rubyhiroba なるイベントで、ロジバンについての発表があったらしい。
発表資料も上がっていたので見てみると、「おすすめリンク」になんとはじロジがあるじゃないか!あざます!嬉しい限りです!精進します!更新停滞してすみません!

ということで、広報活動(?)とはじロジご贔屓の感謝の印といたしまして、その資料についての返事といいますか、より興味のある方のために補足情報を以下に書き連ねたいなと思います。

形としては、スライドの内容を追っていきながら、訂正があれば訂正を、補足があれば補足をしようかなと思います。

このスライドで初めて人工言語なるものを知り、ちょっともっと知ってみたいなという方向けの記事でもあります。

発表資料はこちら:http://www.slideshare.net/matsubaramasanao/ss-39333232

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#1
『ロジバンは人工言語
・ 指輪物語のエルフ語
・ 星海シリーズのアーヴ語
・ エスペラント
こういうのと同じ』
一応、wikipediaから引っ張ってくると、
『人工言語(じんこうげんご、英 Constructed language、Artificial Language、Model language、Conlang)とは、個人や団体などによって語彙や文法が人為的に作られた言語の総称である。』
コンピュータ言語、プログラミング言語も人工言語の一種ですが、ふつう人工言語と言うと、「人が話す/書く用にデザインされた言語」を指すことが多いです。

実は人工言語はさらに細分化されます。おおまかには3つ、
・ 国際補助語
・ 工学言語
・ 芸術言語
です。架空言語というのもありますが、これは芸術言語に入るのかな?僕は入ると認識していますが、どうなんでしょう。

それぞれを簡単に説明します。
国際補助語の代表はエスペラントで、ほとんどの人が「人工言語」と聞くとおそらく「国際補助語」をイメージするんではないかと思われます。その名の通り、国際補助語は『共通の母語を持たない人々の間で意思伝達をするために使われる(あるいはそれを目的として創られた)言語』(wikipedia)です。簡単にいえば、「できればみんなに使ってもらいたがりな言語」1位です。
 
工学言語は、ロジバンが該当しますが、これは『工学言語(こうがくげんご、英: Engineered languages ときどき engelangs と略される)は、言語どのように働くかという仮説を、実験または証明するために考案された人工言語』(wikipedia)です。ちなみにロジバンは(そこまで態度をあらわにはしていないものの)「サピア=ウォーフ仮説」の検証を目的としているようです。(この仮説についてはwikipediaでどうか調べてくださいまし)

芸術言語もとい架空言語は(よくエスペラントと比較されてプンスコしている人がいる言語界隈でもありますが)、『芸術言語(artistic language, artlang)は、美的楽しみのために作られた人工言語である。工学言語や国際補助語と異なり、芸術言語は通常、非常に自然言語的な不規則な文法規則を持つ。』(wikipedia)と書かれております。日本だとおそらく「アルカ」が割と有名ですね。エルフ語やアーヴ語もこのカテゴリに属するかと思います。

たしかにすべて人工言語ですが、色々あってみんなおもしろいです。

#2

『ロジバンのポイント
ロジバンという人工言語の特徴
・ 表記と発音が一致している
・ 覚える単語数が1300語しかない
・ 文法がBNFで定義されていて曖昧性がない
・ 出来た文は、一階述語論理の式になる』

読み方によっては少し誤解を生みそうな表現があるので、そのあたりだけ補足します。

・ 表記と発音が一致している
間違ってないと思います。英語のように綴り方で単語によって文字の読み方がコロコロ変わるというようなことはありません。ただし、厳密に一致しているわけではなく、ある表記にはある程度幅広い発音が許容されるようになっています(たとえば、"r"は巻き舌のrでも英語のようなrでも日本語のようなrでもOKです)。すなわち、より親切設計になっているわけです。

・ 覚える単語数が1300語しかない
言いたいことは伝わってきます。というのは、ロジバンでは基本語が1300語程度定義されており、それ以外の単語はほとんどすべてその基本語の語根(みたいなもの)の組み合わせですべて作り上げていくため、「1300語あればほとんどすべての語を覚えたも同然!」ということです。
たとえば、「山」と「登」という漢字を覚えれば「登山」も覚えてる同然、みたいな話です。
まあもちろんのことながら、理論上の話だと僕は思っています。そんな甘くねえなあ!といつも思っているわけですが、それでも語根(みたいなもの)のデザインが非常に上手くて、日本語話者の僕たちが見たことない熟語を見たときにそれを構成している漢字から意味を類推する、というようなことをロジバンでも行えます。
感覚的には「基本漢字1300文字が用意されていて、それを組み合わせていく」くらいに捉えていただければ、メリットもデメリットも程よく分かるかと思います。

・ 文法がBNFで定義されていて曖昧性がない 
現行の公式文法はyaccで書かれています。なお、ロジバンは今も文法が研鑽されていまして、たぶん次の文法改正(いつになるかはわかりませんが)では公式文法はPEGで書かれるのではないかなと思われます。BNFには人が読みやすいために翻訳されてはいます。
あ、あと、「曖昧性がない」というのは構文厳密のことを指しています。意味論厳密ではありません。

・ 出来た文は、一階述語論理の式になる
その通りだと思います。ひとつだけ念のために言っておくと「一階述語論理の記述しかできない」わけではなくて、一階述語論理を文法の基盤にしつつ様々な論理の表現を実現できるように様々な単語も用意されています。たとえば、二階述語論理もロジバンで記述可能です。


#3

『人間が会話で話せて しかも、"そのままプログラムとして解釈可能" という事が保証されている』

構文厳密なので、パーサはかなり簡単に実装できると思います。ただ、意味論厳密は目指していないので、コンピュータに意図した意味で解釈させられるかどうかはまた別の問題かもしれません。

#4
(ロジバンの簡単な文法説明です)
『まず、ロジバンの単語はすべて動詞です ”lo"を冠詞として付けると名詞(または形容詞)になります』
限られた時間で説明するなら、これが一番伝わりやすいかなと思います。この記事は幸いにも時間に縛られてはいないので、もう少し正確さを増してみます。

まず、ロジバンの(機能語以外の)単語はすべて一階述語論理でいう述語に相当します。たとえば、{plise}は「xはyという品種のりんごだ」というような述語に相当します。
{lo}という冠詞をこの述語につけると、「[述語F(x1,x2,...xn)]のx1を満たす個体定項」くらいの意味になります。これをざっくり言えば、やはり「名詞になる」というのが最も妥当かと思います。

#5
『なので基本的に「リンゴ(plise)」だと lo plise リンゴ』
なので、{lo plise}というと、「[xはyという品種のりんごだ]のxを満たすような個体定項」という意味になり、結局これは「リンゴ」を意味するわけです。{lo}は述語を名詞化するというのは間違った表現であると言い切れはしませんが、ロジバン界隈では「名詞」ではなく一階述語論理から言葉を借りて「項(term)」をよく使うので、{lo}は「述語から項をつくる冠詞」とよく説明されます。

ただ、ロジバンの用語は一階述語論理から借りてきたり、ロジバン独自に作っていたりと、初見では理解しにくいところがあるのは確かです。ですから「動詞」「名詞」という表現は、一時的には許容される説明の仕方だと思います。

#6
『語が2つあると前から順番に後ろの語を修飾します
lo kukte (美味しい) plise (リンゴ) => 美味しい リンゴ』
一階述語論理でいうところの「述語」を使って、形容表現が可能ということですね。


#7
『文法は(普通は)SVOの並びです
例: lo nanmu (男) cu citka (xはyを食べる) lo plise (リンゴ)
= 男はリンゴを食べる
※ cuは動詞と名詞の区切りを表す単語』
「普通は」というのを「現時点での主流では」と解釈すれば正しいです。より一般的には、SOVもVOSもVSOも可能です。
少し詳しく説明すると、述語 F(x,y,z) というのがあり、命題「F(a,b,c)」を表したいのであれば、
・ a F b c (いわゆるSVO)
・ a b c F (おそらくいわゆるSOV)
・ a b F c
のように(a,b,c)の順序を変えない限りで述語(動詞)はどこにでも置くことができます。

もっと説明すると、上では(a,b,c)の順序が変わらないようにしか書けないように述べましたが、実は「位置タグ」とでも言えばいい語を使えばどんな風にも置けます:
・ fa a F fe b fi c (さきほどと同じ並びを「位置タグ」をあえて書いたもの)
・ fi c F fa a fe b
・ fa a fi c fe b F
・ F fa a fe b fi c
・・・
 細かい「位置タグ」のルールについては書きませんが、概ねこんな感じに「述語の引数の位置を明示することで順序フリーな書き方ができる」ようなシステムもあります。

{cu}はデリミタです。

#8
『構文の曖昧性の排除
・ 自然言語では解釈に曖昧さが出る文でもロジバンでは構文で回避される
例: 大きな机と椅子 "大きい"は机'だけ'にかかっているのか?両方にかかっているのか不明?

ロジバンだと2つは、構文が違うので曖昧さが発生しない
lo barda (大きい) jubme (机) .e(と) lo stizu (椅子) / [大きい机]と[椅子]
lo barda  ke jubme e stizu  ke'e / [大きい[机と椅子]]
※ ke 〜 ke'e が括弧』
例文に文法的誤りはありますが、述べられていることは正しいです。
おそらくこれは「大きい机と椅子」という例があまり良くないのかなと思います。
んー・・・。たとえば、「黒い長い髪の女の子」とかどうでしょう?
① [[黒い[長い髪]]の女の子] (髪の色が黒い)
② [黒い[[長い髪]の女の子]] (女の子が黒い)
これらの表現はそのままの日本語では括弧という記号を用いないと区別できません。

ロジバンだと、
① lo xekri ke clani kerfa ke'e nixli
② lo xekri ke clani kerfa nixli ke'e
・ xekri : 黒い
・ clani : 長い
・ kerfa : 髪
・ nixli : 少女

と、ke...ke'e を適宜用いることで修飾関係を外部から記号を持ち込まずに言い分けられます。

巷で有名な「頭が赤い魚を食べた猫」もロジバンでは(たぶん)修飾関係をはっきりと明示できます。


#9
『ロジバンは習得しやすい?
・ YesですしNoです
デメリット
・ 単語は"ほぼ"すべて覚え直し
・ 今まで習ってきた外国語とは違う感じの構文』
「YesですしNo」これはとても同意します。自然言語のような例外な要素はほとんどないので、そういう意味では習得しやすい(YES)ですが、文法が述語論理ベースであるという非自然言語的な側面に頭をどつかれることもしばしばあります(NO)。

デメリットに関しては、これはメリットと表裏一体です。
「今まで習ってきた外国語とは違う感じの構文」というのは全く以ってその通りで、それが故に少し難解と思われる場面がちらほら出てくるかもしれませんが、個人的にはそのおかげで全体的には平均的な自然言語よりも文法は単純になっていると思います(とりあえず受動態、時制、相などは表現に必須ではない)。

単語はほぼすべて覚え直し、というのは真です。ですが、日本語話者の私たちがアラビア語を覚えるときよりは(きっと)楽です。というのも、ロジバンの基本語彙の音(綴り)は、この語彙が作られた当時の自然言語話者数上位いくつか(中国語とかヒンドゥー語とか諸々)の相当する語の音をある一定のアルゴリズムで混ぜあわせて作っているからです。
たとえば、
{gunma}[グンマ]は「群れ」という意味です。「グン」は「群」の音読みに相当しますね。
他にも、{ckafi}[シュカフィ]は「コーヒー」という意味です。これもなかなかわかりやすいのではないでしょうか。
・・・という風に「ほぼ」すべて覚え直しですが、いくらか覚えるヒントみたいなものは探せばあります。
そして、これがメリットと表裏一体というのは、この語彙の作り方が比較的中立であるということです。よくエスペラントは「語彙がヨーロッパ中心だから世界語として不適(もしくは、文化的に中立ではない)」と批判されることがありますが、あれは考案者がヨーロッパ人ということもあるのでしょう(時代もあるでしょう)。そのため、語彙作成の際にいささか恣意的な選定が入ったということですが、ロジバンはその辺りを上手く回避しているのではないかと思います。

#10
『本当にプログラミングできるの?
・ 出来ます!(まだ誰も作っていませんが)
・ ただ、最初に想像した夢物語までには流石にならないでしょう』
「本当にプログラミングできるの?」
できます!そしてあります!→ http://homepage3.nifty.com/salamander/myblog/cakyrespa.html
というわけで、ロジバンで命令して亀を動かすプログラムというのは既に作られています。
ので、「誰も作っていない」わけではありません。

夢物語までにはさすがにならないのは、ロジバンが意味論厳密も実現しようとは毛頭考えていないことからも察せます。まあそれでも、構文厳密が少なくとも満たされている、というのはありがたい性質かもしれません。


#11
『おすすめリンク 興味がありましたら幾つか情報源を
・ Wkibooks – ロジバン http://ja.wikibooks.org/wiki/ロジバン
・ はじめてのロジバン http://seesaawiki.jp/hajiloji/
・ The Complete Lojban Language 日本語抄訳 http://ponjbogri.github.io/cll-ja/』

はじロジを入れてくださってありがとうございます(改めて)。
さて、ロジバンの講座・資料は色々あるので、ぜひ色々見てくださると楽しいと思います。
「はじめてのロジバン」ではトップページに関連リンクとして様々な教材とリンクしています。
また、日本語で公式wikiに学習教材のまとめページもありますので参考に。

個人的には、入門講座「ko lojbo .iu」(http://guskant.github.io/kolojbo.iu/)がおすすめです。日本語ではおそらく唯一のロジバンの音声講座なので、ロジバンの音声も聞くことができます。

あ、あとひとつ、個人的にアドバイスとして…。
wikipediaのロジバンの記事の文法概要をみて「私には無理だ」と思うのはあまりにも早計です!
#ロジバンあるある ハッシュタグで度々あがりますが、よくある事例です。
あの文法概要は最強に濃縮しているので、初学者がみてもちんぷんかんぷんなのは必然です。
上にあげたサイトをまずはちらりと見たほうが恐らくロジバンの雰囲気はつかめると思います。

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こんな感じでしょうか。せっかくRuby界隈に「ロジバン」というワードが知れ渡ったのだから、これを機会に便乗しよう!という目的の記事でした。これを発表してくださった方(babanさんだろうか)には本当に感謝します。ki'ecai .baban. uisai

決して当スライドの批判記事というつもりはなく、あのスライドを見てくださった方で興味を持たれた方へのmore information として書いたつもりです。もしそのように受け取られるような記述があれば、コメントください。訂正いたします。

ちゃんちゃん(fa'o)

4 件のコメント:

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  3. えっと、coi .wasanbon. .ui sai
    本当であればマサカリ投げられて然るべきものを
    意図を汲んだ上で補足まで書いて頂き有り難う御座います
    この程度で見逃されているのが、ロジバン界隈がまだまだ人が多くない中で
    皆さん大人であるというだけである自覚程度はありますので
    精進続けますという事で
    生暖かく見守ってやってください

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  4. コメントありがとうございます ki'e

    私はほとんど情報系とは接点のないような人間ですので、このようなロジバンの広報活動(言い方が悪いかもしれない^^;)はとてもありがたいなあと思っております。

    私はほとんどロジバンについて発表するような場をもつようなことはないので、そういう機会のある方が思い切って発表して、情報社会の世の中ですから、それをひっそりと補足する黒子的立場から応援させていただきます .ui

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