14/12/14 ver1.0
ni'o
ロジバンの特徴でもあるbrivlaの位置構造に関する解釈のひとつの提案を述べる。発想自体は、有機化学で用いられている共鳴理論にある。結論をいえば、位置構造とはいくつかのパラメータ(おそらくフォーカス)の共鳴混成体であり、それは共鳴構造の重ねあわせとして理解されるものである。
参考:共鳴理論-wikipedia
ni'o
ロジバンのbrivlaは位置構造・位構造・Place Structure・PSと呼ばれる構造を有している。辞書では、文に穴の空いたような形でそれが示されている:
dunda : x1 は x2 を x3 (者)に与える/贈る/授ける
このような定義の形をテンプレート型定義・鋳型定義と呼ぶことにする。
鋳型定義は、x1,x2,x3,..の位置・穴(窪み)にお望みの項を入れることで文が完成するということが直観的に分かるという点では優れているが、よく問題にされているように、ロジバンには態が存在しないため、鋳型定義は往々にして誤解を生む。代表例はbanguである:
bangu : x1 は x2 (使用者)が x3 (概念/命題/文字列)を表すのに用いる言語
これは鋳型定義を見る限りでは、「言語」の意味のみを有すると思いがちであるが、もう少し広い意味合いがある。実際、日本語定義にはもうひとつ鋳型定義がなされている:
bangu : x2 は x1 語を話す
すなわち、我々がどんな言語をふだん使っているのか、というようなことを表すのにもbanguは使えるわけである。単一の鋳型定義のみでロジバンを学ぶ人には、「私は日本語を話します(日本語話者である)」という表現にtavlaを使ってしまっているケースもよく見られる(もっとも、これはPSの分析・把握が疎かになっているということも関係してくる。tavla_2,3 のことを踏まえれば、明らかにそれが適したgismuでないことは察せられるはずだからである。しかしながら、そもそも初学者がそこまで気を回せるはずがなく、そういったことも踏まえて、辞書側(定義側)に問題があると言いたい)。
鋳型定義の最大の問題点は、自然言語はロジバンと違って態を有してしまったり、認知言語学的な意味合いの差異が生じてしまったりすることにある。例えば、「私はあなたに与える」と「あなたは私から与えられる」では、フォーカスが異なるため、日本語では少しニュアンスが異なる。
ロジバンを他言語に翻訳すること(一般にどの言語から言語でもそうだが)は、何らかの要素が抜け落ちたり、もしくは逆に余分に付加されたりすることがままある。たとえるならば、ロジバンを日本語に翻訳するということは、ロジバン表現にある側から光を当てた影を見るに等しい。鋳型定義による翻訳は特に、ロジバン表現の真の姿を部分的にしか捉えられていないと言えよう。
ni'o
鋳型定義の他に、項型定義・項目型定義 というものも考えられる。これは、定義に鋳型を使わずに、それぞれの項の役割のみを辞書にて定義するというやり方である。
dunda : 1[贈与者] 2[贈与物] 3[受取人]
bangu : 1[言語] 2[言語使用者] 3[言語によって表現される命題/概念/文字列]
項型定義は次のようにも書ける:
dunda (贈与者; 贈与物; 受取人)
このように書くと分かる通り、項型定義というのは関数型定義とほとんど全く同じ形式である。
項型定義・関数型定義は鋳型定義に比べると、ロジバン表現に近いが、それはどちらかと言えば、あまり日本語に訳していないからということに主に起因する。恐らく何人かが思うように、項型定義、関数型定義は自然言語による定義にしては無機質であり、直観的とは言いがたい。意味の捉えにくさはロジバン表現をよりよく表していることといくらか関係はありそうだが、初学者にとって、このことは理解の前に挫折を味わわせてしまうように感じる。
ni'o
解決方法は至ってシンプルである。有機化合物の電子密度の様子を、複数の共鳴構造の記述によって一つの共鳴混成体として理解するように、私たちは複数の鋳型定義の記述によって一つのロジバン表現の真の意味を炙り出せるかもしれない。これに近いことは既にbanguの日本語定義でなされていた:
(1) bangu : x1 は x2 (使用者)が x3 (概念/命題/文字列)を表すのに用いる言語
(2) bangu : x2 は x1 語を x3 (概念/命題/文字列)を表す際に用いる
(3) bangu : x3 は x2 (使用者) が x1 語を用いて表すような概念/命題/文字列
これら一つひとつの鋳型定義は共鳴構造である。banguの実際の意味、すなわちbanguの共鳴混成体はこれら3つの共鳴構造の重ねあわせによって表される。一応補足しておくと、少なくとも位数(位置・穴の数)だけ共鳴構造は存在することになる。
ほとんどの単語において、それぞれの共鳴構造の共鳴混成体への寄与は同程度であると考えられる。上の(1)(2)(3)はほとんど同じくらいの影響力を以てbanguの実際の意味に寄与しているだろう。しかしながら、いくつかの単語では、共鳴構造の中のいずれかの寄与が大きかったり、はたまた小さかったりすることは十分にありうる。その非対称性はその時点でのコミュニティに属するロジバン話者によって決定づけられるだろう。たとえば、(3)のような意味でbanguを使うことが少なければ、(3)は(1)(2)よりもbanguへの寄与が小さくなるだろう。
上のような、x_1とx_nを入れ替えたような鋳型定義たちのことを転換型共鳴構造と呼ぼう。実のところ、共鳴構造には、転換構造以外にもある:
(4) blanu:x1は青い
(5) blanu : x1は青色物体だ
(6) blanu : x1は青る
すなわち、自然言語の品詞別による共鳴構造の形成である。(4)(5)(6)はそれぞれ形容詞、名詞、動詞の表現である(「青る」は架空の動詞ではあるが)。これらを品詞型共鳴構造とでも呼ぼう。これらについてもそれぞれの共鳴混成体への寄与度に大小こそあれ、すべてを重ねあわせたのがblanuの実際の意味として理解されよう。
ni'o
完全に蛇足であるし、お遊びだが、形だけでも数式ライクにあらわしてみる。共鳴理論は、素朴に考えれば、それぞれの電子状態の波動関数を線形結合したものを実際の電子状態の近似式として採用するということだと思う。位置構造でいえば、それぞれの構造(転換型でも品詞型でもよい)を表す状態関数(|φ_i> とでもしよう)の線形結合を実際のPSの近似として採用するということである。この際、すべての状態の線形結合を考えるのが最も近似式としてよいというのは直観的にわかるが、その中の主要な状態関数、もしくは考慮している状態、たとえば転換型だけを考慮しているならば品詞型については固定するといった手法のほうがしばしば実用的である。これは、すべての状態の線形結合において、特定の状態関数の係数を0と置いてやるに等しい。
|ψ> = Σ[s∈S] c_s・|φ_s>
量子力学に倣えば、規格化条件により、
<ψ|ψ> = 1
である。ここで * は複素共役記号である。
c_s は恐らくその共鳴構造の使用頻度と正の相関がある。諸々の条件が必要であるし、それをそもそも満たすかも分からないが、論理飛躍甚だしく進めれば、その位置構造においてある共鳴構造|φ_s>が占める比率 P_sは、
P_s = c_s*・c_s
となる。ここで * は複素共役である。つまるところ、各々の係数がその使用頻度に比例して増加し、それによって本来の位置構造への寄与率が上がるということである。
※ 設けた条件は、
<φ_s|φ_t> = δ_s,t
である。それぞれの共鳴構造は直交している(相関がない)くらいにとってもらえればいいかと思う。
ni'o
最後にくだらない数式の羅列を書いたが、ただの数学コントなのであまり気にしないでください…。
いずれにせよ、位置構造を位置x_nをそれぞれ主語にもっていった形の鋳型定義文の重ね合わせで見てみようというのは、そこまで困難なことでもないだろうし、少し意識すればできることだと思う。
実際はもっと本質的に(言うなればシュレディンガー方程式を解くように)位置構造そのものをそっくり把握できればいいが、初学者にそれは厳しいだろうし、初めのうちの処方箋としては十分効果的な解釈なのではないかと思っている。
fe'o
0 件のコメント:
コメントを投稿